今は遠き
風の歌
こんばんは
フェルゼです。
今回更新分は、色々な処で目にさせて頂いていた題材。
なのはさんが、墜ちた時の。
と言いましても、墜ちたその時のものではありません。
再び舞い上がるまでのインタールード。
幕間の物語となります。
主な登場人物は「なのはさんとフェイトさん」
設定に引っ掛かる方もみえるかもしれませんが。
すみません、創造の産物です。
お付き合いいただける方は、以下からどうぞ。
「もう、すっかりいいですね」
ゆったりと大きめの椅子に腰かけた初老の男性が、カルテを見ながらそう告げた。
無翼連理
「もう、大丈夫なんですか?」
対面した椅子に座って、なのはが、恐る恐る尋ねる。
「えぇ、怪我自体はもう治っていますし。
リハビリに励まれた成果でしょうね、体力等もほぼ元のレベルに回復しています。
しばらくは前のように仕事をなさるのは避けていただくことになりますが、それ以外なら」
「…ありがとうございます!」
頭を下げたなのはに、白衣のその男性は手を振った。
「いやいや…私どもは手伝いをしただけです。
さすが、エース・オブ・エースは違うと職員も驚いてましたよ」
ははは…と笑って。
「念のため、月に一回程度は来てください。
まぁ、それも数回で終わるでしょう。
では、お疲れさまでした」
「どうも、ありがとうございました」
もう一つ、頭を下げてなのはが診察室を出る。
おめでとうございます…と声をかけてくる職員たちに会釈を返しつつ、待合室へと足を向けた。
その表情に一瞬落ちた陰には、誰にも気づかれることなく。
疎らにヒトの姿のある待合室。
その一角に。
「どうだったの?」
八神一家と、フェイトがいた。
「もう大丈夫だって」
嬉しそうに、なのはが告げる。
「そうか…!
でも、しばらく仕事はあかんのやろ?」
「うん…避けてくれって、言われた。
でも、それ以外ならいいって」
声に隠しきれない嬉しさが漏れる。
「そうか…それはよかったな」
はやてやシグナム達もほっとした表情を見せる。
「だから私、ちょっと飛んでくるね!」
弾むようななのはの声に、フェイトがぴくりと肩を震わせた。
「それで、そんなに嬉しそうやったんか」
揶揄するようなはやての声に、小さな笑みを返して。
なのはは踵を返した。
「私たちは私たちで帰るとするか」
そんなはやての声が、なのはの背中に追いついて。
なのはの姿は、屋上へと続く通路に消えた。
「さてと、なのはちゃんの忘れもんもなさそうやし…ん?」
「…シャマル、テスタロッサを知らないか?」
「あら?いない…」
「なのはのとこじゃねーのか」
「おそらく、そうだろうな」
「ふむ…まぁ、心配ないやろ」
もう一度待合室を見まわして、はやてたちは病院を後にした。
「ふぅ…」
屋上へと続く扉。
なのはが辿り着いたそこには。
「引き返して、なのは」
フェイトが、立っていた。
「…どうして?」
「なのはは、今、飛んだら駄目だから」
「なんでそんなこと言うの?」
フェイトは誰より知っているはずなのに。
誰よりそばで見てきたから、知っているはずなのに。
なのはの、空への思いを。
弱々しく睨みつけたなのはに、フェイトの表情が歪む。
数秒、無言で対峙して。
なのはは、フェイトの横を通り抜けた。
ゴォ…!
風が、吹き抜けた。
「…」
髪を押さえて立ちつくしたなのはの脇を、フェイトがすり抜ける。
フェンスの手前。
すとん…と降り立って。
「ここまで、来れる?」
なのはを、呼んだ。
「当たり前だよ…今日までに何回そこに立ったと思ってるの?」
そこは、フェイトの立つ場所は。
なのはのお気に入りの場所。
リハビリを兼ねてここまで来て、そこに立って。
空に、思いを馳せた場所。
なのはが一歩踏み出す。
空が近づく。
さらに足を進める。
いつも見ていた空が、頭をよぎる。
今日は、今日こそは、あの中に。
なのはは思い出していた。
―地面を蹴る、瞬間を。
―空気に包まれる瞬間を。
―空気を切り裂く刹那を。
―体が切り裂かれた刹那を。
「……!」
足が、止まる。
青に染まっていた視界が、赤に侵食される。
「ぁ…あ…」
がくがくと震えだした足が。
言うことを、聞かない。
「あ…ゃ…」
伸ばした手は、フェンスに、届かず。
まして、空には。
「私…!」
それでも、近づきたくて。
前のめりになった体が、バランスを崩す。
「…やだ…!」
空が、遠ざかる。
心がどれだけ求めても
体が。
「だから、駄目なんだ…」
なのはの体は、それ以上倒れることなく。
フェイトの、腕の中にあった。
「なのはの翼は、まだ、憶病なんだよ…そんな翼じゃあ、飛べるはずがない」
ゆっくりと、背中を撫でる。
「なのはは頑張った。
辛いリハビリだってやった。
だから、飛べるだけの体力は戻ったかもしれない。
でも」
肩を掴んで、正面から見据える。
「まだ、一人じゃ、駄目なんだ」
自らの現状に。
否定のできない言葉に。
けれどもなのはは、首を振った。
「いや…!
私、飛びたい…!」
「わかってるよ…。
だから」
そこで言葉を切って。
「キャ…!」
フェイトは、なのはを抱きあげた。
「今は、私が連れて行ってあげる」
そして、そのまま地面を蹴った。
「空…」
しばらくはフェイトの腕の中、ぼんやりと景色を眺めていたなのはが手を伸ばした。
虚空を、掴む。
「私、頑張らなきゃ…」
「なのは…?」
「もっと、頑張らなきゃ…」
「無理、しないでいいから」
「でも、私エース・オブ・エースだから…!
頑張って、飛べるようになって、仕事も前みたいに…うぅん、前以上にやれるように…!」
「違うよ…」
硬い表情で告げるなのはを、フェイトは前を見たままで遮った。
「…フェイトちゃん?」
「なのははエース・オブ・エースだけど。
でも。
その前に、"高町なのは"っていう、一人の女の子なんだから。
だから、無理しちゃ、だめ。
ね?」
ぎゅっ…と、フェイトがなのはを抱く腕に力を込めた。
―――高町なのは
―――エース・オブ・エース
いつの間にか、誰もがその二つの名をイコールで結んでいて。
当のなのはさえ、口では苦笑とともに否定しつつも自身についた二つ名として意識をしていた。
その名に相応しくならなくちゃいけない。
強くなくちゃいけない。
呪文のように、言い聞かせて。
強くなろうとした。
強い、ヒト。
それが"高町なのは"…そう、なっていた。
―――こんなにも、弱いのに。
「…」
弱さを、受けれいてほしかった。
弱い、自分を。
縋りつくようになのはもフェイトを抱き寄せる。
―――それを、許されたから。
じんわりと、温かいものが広がっていく。
しばらくの間、二人はそのまま飛び続けた。
「大分、離れちゃったね」
ふとフェイトが周囲を見渡して呟いた。
飛び立った病院はもう、遥かに見える建物のどれかでしかない。
「もう、帰ろうか」
フェイトの提案に、なのはは顔を埋めたままで首を振った。
「どこか行きたいところ、あるの?」
「…フェイトちゃんの」
「私の?」
「フェイトちゃんの、お部屋」
「え…?」
「引っ越したって聞いたけど、私、一回も行ったことない」
「あ、あぁ…そうだね」
病院の位置から、今いる場所の当たりをつける。
ここからフェイトの住まいまで…大丈夫、そんなに距離はない。
この薄暗くなってきた空に紛れてなら、きっと。
「じゃあ、行くよ」
ゆっくりと旋回して、フェイトが方向を変える。
「あのね、もう一個、いい?」
「何?」
「フェイトちゃんの速さで、飛んでほしいの」
「…危ないよ」
「知りたいの、フェイトちゃんの空を」
「でも…」
「ちゃんとしがみ付いてるから。
それに…フェイトちゃんが抱きしめてくれるから。
だから、大丈夫」
埋めていた顔を上げて、なのはがそっと微笑んだから。
「その言い方はずるいよ、なのは」
フェイトは小さくため息をついて。
「…しっかり掴まっててね」
なのはを抱く腕に力を入れ直し。
「うん…!」
速度を、上げた。
「これがフェイトちゃんの空…」
呟くようになのはが告げる。
少しづつ姿を見せ始めた星々が、瞬く間に流れていく。
なのはのものとは違う"空"が、そこにあった。
再び手を伸ばす。
切り裂く空気が、少し痛い。
「届くから…戻ってくるから」
呟く。
「…焦らないでね。
空は、ちゃんとあるから」
「うん…」
「私は、ずっと待ってるから。
なのはの空にいるから」
「うん…」
瞬時に流れて消える声。
でも、その中に込められた思いは確実に。
互いの心の中に、留まっていた。
「いらっしゃい、なのは」
戸を開けたフェイトに促されて、なのはが一歩踏み込む。
「これがフェイトちゃんの新しいお部屋?」
「うん…あんまり見ないでね。
また片付け、終わってなくて…」
確かに部屋の片隅にはまだ、開けられていない荷物がちらほらと見える。
ゆっくりと歩きつつ、部屋を見渡す。
「んと…シンプルだね」
開けられていない荷物を出したと仮定しても、この部屋には物が…ない。
「何か可愛い小物とか…とも思うんだけど。
私にはよくわからなくて」
「あ、じゃあ明日一緒に見に行こうよ」
「いいの?」
「うん!
私このあたりのこと知らないから、ついでに案内してくれると嬉しいな」
「私もそんなに詳しくはないけど…いいよ。
分かる範囲で案内してあげる」
そして、この日初めて、顔を見合わせて微笑んだ。
日没はとうに過ぎ。
有り合わせで夕飯をすませ、少し汗をかいていたなのはのために軽くシャワーを浴びた。
時は、過ぎる。
「…送っていこうか?」
時計を見上げて、フェイトがつぶやいた。
帰るのならば、そろそろギリギリの時間。
明日は共に出かける約束もある。
そう頻繁に飛ぶことも出来ないので、今この時間がリミット。
「…その方が、いいと思う?」
帰るの、ならば。
「…」
フェイトが押し黙る。
なのはの示した選択肢が、"送っていくべきか否か"ではなく"帰るべきか否か"であることは分かっていた。
「なのは、やっと体力とか戻ったばかりだから」
どこか呻くように、フェイトが告げた。
―――久しく触れていない愛しいヒト。
自分で抱き上げておいて、鼓動がはねて。
飛んでいる時は少し、泣きそうになった。
―――でもそれは、なのはも同じ。
抱きしめられて、空を飛んで。
今、二人きりの空間にいる。
離れたくなかった。
離したくなかった。
でも、だからこそ。
これ以上この空間に居続けたら、どうなってしまうのか。
分からない。
けれど、多分、分かっていた。
「私、このお部屋のこと知らない。
フェイトちゃんがどんな生活をしているのか、知らない」
知らないから、知りたい。
今、この機会を逃したくない。
それがなのはの答え。
だから。
「案内、してあげようか…?」
それがフェイトの答え。
町の案内は明日だから。
外を案内するには遅すぎるから。
だから。
案内はまず、一番近い場所へ。
フェイトが差し出した手をなのはが取って。
フェイトの、寝室へと。
後書き
今はまだ、翼無き比翼の鳥。
だから。
その手を、取る。
この記事へのコメント
ああ、なんていう大人な雰囲気。
すごく良かったです♪
そしてやはり、なのはさんのことを一番理解しているのはフェイトさんなんですね。
ごちそうさまでした♪ これからも頑張ってください。応援しています。
P.S.リンクお願いしてもよろしいでしょうか? よろしければお返事いただけると幸いです。
すごく良かったです♪
そしてやはり、なのはさんのことを一番理解しているのはフェイトさんなんですね。
ごちそうさまでした♪ これからも頑張ってください。応援しています。
P.S.リンクお願いしてもよろしいでしょうか? よろしければお返事いただけると幸いです。
2008/06/18 (水) 14:00:41 | URL | まぎゅなむ #-[ 編集]
大人な雰囲気、ありましたかw
どうもありがとうございます。
フェイトさんはなのはさんを理解しようと努めて、なのはさんもそれを望んだから。
だから、二人なんだと思います。
はいw
お粗末さまでした。
がんばりますよー
追伸
リンク、ありがとうございました。
どうもありがとうございます。
フェイトさんはなのはさんを理解しようと努めて、なのはさんもそれを望んだから。
だから、二人なんだと思います。
はいw
お粗末さまでした。
がんばりますよー
追伸
リンク、ありがとうございました。
2008/06/30 (月) 00:05:24 | URL | フェルゼ #-[ 編集]
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