Empty Dumpty
ヒトもすなるぶろぐといふものを、私もしてみむとてするなり。 徒然なるままに文章を書いてみるつもりです。
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ぼたりと、落ちる
赤と言われて、思い浮かんだのは二つ。
こちらなら、この方でしょう。

こんばんは
フェルゼです。

赤。
それは生の象徴です。
赤。
それは死への連想です。
相反する背中合わせの二つの概念が、
一色の中に同居している。
だからこそ、あんなに毒々しく鮮やかなのでしょうか。

さて、今回更新もカテゴリリリカル。
赤の物語です。
自分でも分類が分からないですが、なのはさんとフェイトさんの物語。
それは確かなようです。
お付き合いいただける方は、以下からどうぞ。


 三階分の階段を、ゆっくりと登る。
 お世辞にも日当たりのよいとは言えない立地。
 辛うじて日の当たっていた階段を廊下の方へ曲がると、気温が急に下がった気さえする。
 廊下の所々には、煤けたような汚れがこびりついている。
 じっくりと掃除をすれば落ちるのかもしれないが、そんなことをするほど時間の取れる人はここにいないだろう。
 ここに住むのは、局職員。
 その結構な割合が単身の執務官だと聞く。
 忙しさ故にまともに帰ることもない住居。
 それが、この灰色の官舎である。
 そして、執務官である彼女もまた、その例に漏れず、ここに仮初の宿を構えている――

 『フェイトちゃん、起きてる?』
 眠っていることも考えて、インターフォンを鳴らさず、只声だけを飛ばして尋ねた。
 どうやら、その判断は正しかったらしい。
 返事のない様子からして、薬が効いているのだろう。
 官舎の入り口でも使った鍵を取り出すと、私はそっと、彼女の部屋の扉を開けた。
 キイィ……
 どれだけ注意して動かそうと、軋む音はどうしようもない。
 やや錆びついた蝶番を少しだけ、恨めしい気持ちを込めて見た。
 扉を閉めて鍵をかけ、部屋に目をやって。
 私は溜め息をついた。
 散らかっている。
 その一言に尽きた。
 普段の彼女――執務官の制服を纏った彼女しか知らない人たちなら、到底信じられないだろう。
 しかし、こちらとら長年親友をやってきた間柄なのだ。
 全ての肩書と立ち位置を剥ぎ取った彼女がどんなものなのか、知らないほど私たちは遠い仲ではない。
 まして、過労で倒れるほどの忙しさだったのだから、その惨状たるや、推して知るべしといったところか。
 予想はしていた。
 予想以上だった。
 それだけのことだ。
 入り口付近で崩れていたゴミ袋を押しやって、リビング兼寝室へと足を進める。
 掃除と整理は後回しだ。
 とりあえず、彼女の様子を確認しよう。
 それが彼女の母からのお願いなのだから。
 寝室へと通じる戸を開ける。
 カーテンが閉まっているので薄暗い。
 彼女のベッドは、以前来た時とそのままに、部屋の隅に追いやられるように置いてあった。
 その上に子供のように小さくなって、彼女が眠りに落ちている。
 規則正しく上下する肩に知らず安堵の息を漏らして、私は彼女の脱いだシャツを集めつつリビングを後にした。
 散らかっていた衣服の類を一通り洗濯機に放り込むと、私は整理に取り掛かる。
 洗濯機も掃除機も、音のするものは彼女が起きてからの方がいい。
 けれども。
 私がいる間に彼女が起きなければ、なおのこといい。
 ―――
 『master』
 レイジングハートが小さく声を上げた。
 「うん、そうだね」
 私は頷いて、大きく息を吸った。
 フェイトちゃんが、目を覚ました。

 深呼吸を三回。
 そして、私は寝室のドアに手をかけた。
 しかし、私がそれを開けることはなかった。
 扉は開いた。
 中から。
 「なのは……来てくれたんだ」
 フェイトちゃんの、手によって。
 「あ、うん」
 まだ横になっているとばかり思っていた彼女の思いもよらぬ行動のせいで、私は予期せずフェイトちゃんを見上げる形になった。
 瞳に射抜かれる。
 合うたびに色を深めているその瞳の紅は、今はもう深すぎて。
 陽の光の降り注ぐ場所で見ても、軽快な感じは微塵もしない。
 光の届かぬ寝室でなら?
 触れてもいない彼女が、圧し掛かってくるような圧迫感。
 重々しい赤は、重過ぎるが為に鮮やかだ。
 その鮮やかさ故に、私は息苦しさを覚える。
 唯々、鮮やかで。
 シグナムさんの炎でさえ、ここまで燃え立ちはしないだろう。
 燃え立つ赤に意識を焦がされて、あとは只管に凄くなる。
 見なければよかった。
 そう後悔した時は、いつだって手遅れだ。
 すでに彼女の毒は私の血管を廻っている。
 嫣然たる、赤の毒。
 毒が心臓に辿り着いて拍動の制御を奪い、脳を犯して思考を霞ませる度に、私は負けたのだと知る。
 彼女が勝ったわけではない。
 彼女の瞳の赤は、変わらず沈んだ調子を持っている。
 勝者の驕りは、欠片ほどもない。
 むしろ、自分が敗者だと言わんばかりに黒ずんでいる。
 あぁ、けれども一目見たが最後。
 私は赤の魔力から、金輪際逃れることができない。
 この赤は、只の赤ではない。
 見るものを不安にさせ、時には不快にさせ、突き放して溶かし込む。
 
 「なのは、痛いよ」
 静かな声に我に返った。
 フェイトちゃんとの距離が、ずいぶんと近い。
 おそらく、口付けたのだろう。
 いつものように。
 私から。
 拒まれることもないまま、無理矢理に。
 噛み裂いてしまったのか、彼女の唇から流れた血の雫。
 それは、落ちる椿のようだった。
  
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