Empty Dumpty
ヒトもすなるぶろぐといふものを、私もしてみむとてするなり。 徒然なるままに文章を書いてみるつもりです。
left XIII -Heaven Knows-

あなたのハッピーエンド
私のハッピーエンド

こんばんは
フェルゼです。

優しい話が書きたいと、そんなことを思っています。
優しい、優しい物語。
それはきっと、私が何よりもそれを求めているからなのでしょうね。
普段が普段なので、思った通りには優しくできないのですけれども。
いつか。
そう思いながら、数を重ねていくのでしょうか。

さて。
唐突ですが、最終話です。
行く末は神のみぞ知る第十三話。
お付き合いいただける方は、以下からどうぞ。


 治癒可能な外傷は大概が治り、外出許可が出たその足で、フェイトはなのはのいる部屋に向かった。
 「…なのは、いる?」
 「だぁれ?」
 返事はすれど戸を開ける様子はない。
 はやてから預かったキーを取りだし、解錠する。
 室内に漂っていた細かな塵が廊下に吐き出されて、フェイトの視界を邪魔する。
 それを手で払うようにして部屋に足を踏み入れたフェイトの目に映ったのは、ベッドに座り込むなのは。
 しわの寄ったシーツの上に足を投げ出すようにして座るなのはは、フェイトに視線を向けているはずなのにフェイトには何を見ているのかわからなかった。
 「…だぁれ?」
 「フェイト…フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」 
 「…あなたは私を傷つける人?」
 「ちが…」
 違うと言いかけて、フェイトの声が詰まる。
 思い出すのは、かつての自分たち。
 互いに、相手を傷つけ合った日々。
 そして、今も。
 傷付けている自分。
 自嘲が漏れた。
 「そうだよ。私は、なのはを傷つける」
 「ほんとう…?」
 「…うん」
 なのはの瞳がゆっくりと広がり、焦点を結ぶ。
 フェイトが視界に入る。
 「あは…フェイトちゃんだ。
  フェイトちゃんが帰ってきてくれた…」
 座ったままに、なのはが腕をのばす。
 ぴたりとフェイトを向いて止まったそれに、フェイトが歩み寄って。
 ギュッと、抱きしめた。
 右腕がない分の力の込め方がわからなくて、なのはの体が傾く。
 「あ、そうだフェイトちゃん…ほら、あの子、見て。よく眠ってるでしょ。私とフェイトちゃんの子供だよ」
 なのはの腕はフェイトの背中を離れてベッドの上を彷徨う。
 のろのろと伸ばされたその先、そこに視線を向けようとはせずに、フェイトはそれ以上のなのはの言葉を奪った。
 「は…む、ぅ」
 「ん…」
 漏れる吐息ごとその唇を塞ぐ。
 「んぐ、ふぁ…は、ぁ…」
 何度か角度を変え、すべて奪いつくして、そして。
 「違う」
 フェイトはなのはの唇を噛み裂いた。
 「っ!」
 ビクッとなのはが震えた。
 湧き出る紅をフェイトが掬い取る。
 「それはなのはの幻影。都合のいい幻」
 「ふぁ…ぁ…」
 小さく、なのはが息を漏らした。
 「思い出して、なのは」
 傷口を弄ばれるたびに、涙が滲みだす。
 「思い出す…?何を…」
 「傷つけた私と、傷ついたなのは」
 滲んだ涙が瞳を覆う。
 膜が瞳を隠す。
 「傷ついた、私…?」
 小さく言葉を繰り返す。
 「私がなのはを傷つけた。
  なのはが私を傷つけた」
 「私と、フェイトちゃんが…?」
 「だから、なのはが傷ついて。
  私も、傷ついた」
 噛み裂いた傷口を押さえると、なのはが一際大きく震えた。
 「痛い…痛いよ」
 なのはが身を捩って、片腕分の隙間から滑り落ちるように逃げた。
 フェイトがそれを追う。
 「逃げるの?なのは」
 「だって、痛い…」
 「痛いのは、いや?」
 「いや、いや…!」
 背中から覆いかぶさるようにして逃げ場所を奪った。
 潰れるように倒れこんだなのはの肩に手を掛けて、全身の力を込めて仰向けにする。
 そうして、真正面から見つめなおした。
 「どうして?」
 「だって…いやだもん」
 「気持ちいい、くせに」
 耳元で囁いて、そのまま軽く歯を立てる。
 「ひぅっ!?」
 「うそつきなのは」
 暴れるなのはの体を押さえつける。
 何事かを叫ぼうとする口を口で封じて、念話を使ってあらん限りの記憶を流し込む。
 想いを流し込む。
 
 なのはの体から、少しずつ力が抜けていく。
 届けられたそれから、何かを必死で探すかのように強く目が伏せられて。
 一筋、流れた。

 「傷…痛み…フェイトちゃんの、くれた…。
  …あの日も。
  あの日もフェイトちゃん、そうだったね」
 「なのは…」
 虚ろだった声に徐々に。
 意思が、宿る。
 「そして、私は…」
 唇を朱に染めて、同じ色に染まったフェイトを離して首元のボタンを数個外した。
 フェイトの肩が露出する。
 そしてなのはは、その白い肌に歯を立てた。
 ガリッと言う音とともに、歯が表皮を削り取ったことを感じ、フェイトが眉根を寄せた。
 なのはの口内に鉄の味が広がる。
 舌の上で転がすように味わったそれを嚥下して、なのははゆっくりと口を開いた。
 「…お帰り、フェイトちゃん」
 「ただいま、なのは」



 XIII -Heaven Knows-



 「フェイトちゃん」
 病院から言い渡されている検査をシャマルのもとで済ませ、帰ろうとしたフェイトをシャマルが呼び止めた。
 「腕、は…どうするの?」
 シャマルが訊ねた。
 「義手を、お願いしました」
 「そう…でも、義手だと今までみたいには…」
 機械制御のそれは日常生活を送る上では問題ないレベルに発達しているが、デバイスを用いた戦闘、特に高速でのそれには未だ、相性の悪さが指摘されていた。
 特にフェイトの場合は要となる利き手である。
 バルデッシュとの相互調整はかなり微妙なものになると思われた。
 「現場での最終試験が必要らしいんです」
 「え?」
 ぽつりと漏らされた言葉は、シャマルの予想外のものだった。
 「デバイスを直に埋め込んで制御する義手は、もう実現一歩手前だそうです。
  特に、インテリジェントデバイスなら生身の神経との伝達速度のギャップも解消できるとのことで」
 「デバイスを…?」
 「ええ。"ないものを動かす"為に生じる違和感を消すこと、神経の微弱な発火をノーギャップで動作につなげること。
  そのためには情報を処理する末端が必要らしいんです。インテリジェントデバイスなら、それができる。
  もちろんデバイスとマスターの相性問題もありますが、それは大丈夫だと自負しています。
  バルディッシュには今まで以上に負荷をかけることになってしまいますけれど…了承してくれましたから」
 「そう…」
 「私には、両手が必要ですから」
 両の手を見下ろすように落としたフェイトの視線が遠くて、フェイト自身でないものを見ているようで、疑問がシャマルの口を吐いて出た。
 「なのはちゃんのために?」
 フェイトの顔に苦笑が浮かぶ。
 「右腕は、なのはのために。
  左腕は、私のために」
 「フェイトちゃん自身の?」
 「なのはを、しっかりと抱きしめなくちゃいけないから。
  両手で、もう、零れ落ちないように。
  落さないように」
 小さく笑みを見せると、フェイトはその場を後にした。



 右手には鎌を持つ。
 なのはのために。
 私の愛する、世界のために。
 左手には君を抱く。
 私のために。
 私の愛する、君のために。
 私はこの両腕で。
 君とともに、生きていこう。




 数か月の時が流れた。

 「まだしばらくは…手袋のままなんか?」
 はやてが隣を歩いていたフェイトの右手に視線を落とした。
 「そう、だね。そうしようかなって、思ってる」
 「外装はどうにかできるんやろ?」
 「うん。人肌と類似した外装で覆うこともできるって言われてるけど、ね。
  今はまだ、馴染ませておきたいんだ」
 「伝達速度、やっぱり違和感あるんか?」
 「ううん、そこじゃない。それはバルディッシュのおかげで、ほとんどないよ。
  忘れそうになるくらいに。だから、忘れないように、ね。
  これはもう、無いものだから」
 カバンを左手に持ったフェイトが、黒い手袋に覆われた右手を確かめるように動かした。
 「そっか…」
 会話が途切れる。
 しばし無言のまま歩き続けて、交差点。
 「じゃあ、私はこっちやから」
 「うん、またね、はやて」
 互いに別のほうを向いて歩き始めた時。
 「フェイトちゃーん」
 「なのは」
 背後からかけられた声にフェイトが振り返って、顔を綻ばせた。
 「今日は終わったの?」
 「うん、今帰るところ。なのはは?」
 「私もだよ。一緒、いいかな」
 「うん」
 フェイトは右腕でカバンを持ち直して、その隙になのはがその左手をとらえた。
 「えへへ、捕まえた」
 「捕まっちゃった」
 その左腕を握って、なのはがフェイトを覗き込んだ。
 「いこっか」
 「うん」
 
 「これで元通り…か」
 歩き去る二人の背中を見送って、はやてが小さく呟いた。
 「まぁなんにせよ、とりあえず平穏は戻ったわけや」
 一つ頷いて、二人とはまた違った方向へと足を踏み出す。

 管理局の今日が終わり、
 そして
 二人の今日が始まった。

 「フェイトちゃん、夕ご飯どうする?」
 「んー、なのはは何が食べたいの?」
 「私?私は…何でもいいかな」
 「それじゃあ参考にできないよ」
 「じゃあ…なのははフェイトちゃんが食べたいです」
 「もう、なのは!変なこと言うと怒るよ!」
 「キャー、フェイトちゃんが怒ったー」
 なのはがフェイトの腕をきゅっと抱き寄せる。
 握りしめられたフェイトの左手。
 なのはの爪は、その皮膚を浅く抉って。
 つ…と、一筋の朱がフェイトの肌を滑り落ちていき、床に紅の飛沫を残した。
 そして
 笑顔で話しかけるなのはに、フェイトもまた。
 笑みを浮かべたままで、それに返した。

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2005 Empty Dumpty all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.